ste07: 科学技術教育について 07  カントの教育論 「判断力」

論理的推論と言えばシャーロック・ホームズ。演じたBenedict Cumberbatch。こちらから転載させて頂きました。

前回はイマヌエル・カントの『教育学講義』(Lectures on Pedagogy)という書籍の内容などに沿って科学技術的「悟性」の育成方法について論考しました。

同様の手法によって今回は科学技術的「判断力」の育成方法を論考してみたいと思います。

カントの哲学において、「判断力」(Urteilskraft)は知性(Verstand)と理性(Vernunft)の橋渡しをする重要な能力とされています。カントにとっての判断力は、個々の経験や事象を普遍的な概念や規則に結びつける能力(「規定判断力」)と、特定の規則がない場合に適切な判断を下す能力(「反省判断力」)の二種類を意味するとのこと。科学技術的には、「経験や事象」を「観察結果や現象」に置き換え、「規則」を「法則や経験則」とすると前者になります。「法則や経験則」が無い場合には後者となります。

カントは判断力の育成についても子どもの発達段階に応じて段階的に進めるべきだと考えたようで、以下では、悟性の時と同様に発達段階ごとのアプローチとして説明してみます。

1)幼少期(0~6歳頃)
 この時期の子どもは感覚や知覚が中心で、抽象的判断力は未発達だそうです。育成方法としては、規定判断力の基礎としての基本的な規則や因果関係を理解させる、具体的で直感的な例を通じて物事を整理する能力を養うなどが挙げられるようです。ただし、複雑な反省判断力の訓練は時期尚早とのこと。「このおもちゃを片付けるルール」を示し、実施させることで秩序を学んだり、簡単なパズルで論理的思考の基礎を築くなどが有効なのだそうです。

2)児童期(6~12歳頃)
 この時期、論理的思考が発達し、規定判断力の基礎が形成されるそうで、反省判断力も簡単な形で芽生え始めるとのこと。育成方法としては、学校教育を通じて数学や科学で規則を適用する訓練、物語や具体例を通じて美的感覚や道徳的判断の基礎の育成、などがあげられるそうです。また、子どもが自分で考える機会を増やすことも重要とのこと。算数の問題で論理的推論を練習したり、物語の登場人物の行動について「なぜそうしたのか」を議論するのが有効のようです。

3)青年期(12~18歳頃)
 抽象的思考や反省的能力が発達し、判断力が本格的に育つ時期とされ、審美的・倫理的判断も可能になるそうです。育成方法としては、規定判断力と反省判断力の両方を強化するために、科学や哲学を通じて論理的・普遍的思考を深め、芸術や文学を通じて美的判断を養うとよいそうです。ディベートや討論を通じて、他者の視点を取り入れた判断力を磨くことも重要とのこと。文学作品のテーマについて討論させたり、科学実験で仮説を立てて検証するプロセスを経験させる、美術館で絵画を鑑賞し美的価値を語る練習を行う、などが有効のようです。

4)成人期(18歳以降)
 判断力が成熟し、自律的で独立した判断が可能になるそうです。育成方法としては、自己啓発や実社会での経験を通じて判断力をさらに洗練させるとよいそうで、こちらも完全な発達は生涯にわたるプロセスだとカントは考えたようです。実際の倫理的問題(例:職場での意思決定)や芸術鑑賞を通じて、反省判断力を磨くと良いそうです。

上記の論考は倫理や美に関する判断力を偏重しすぎているようです。実際、科学技術的判断を訓練する場や実践する場はそのつもりにならないと実生活に現れません。科学実験も「自ら体験する」機会を中高生が頻繁に得るためには特殊な環境、すなわちサイエンススクールや高等専門学校への入学が必須となります。理工系の大学でも座学を重視すると判断力を磨く場が少なくなってしまいます。

他方、実家が農家、実家が製造業という環境は、おそらくですが、判断を磨く場※を身近に提供してくれるのではないかと考えられます。「蛙の子は蛙」はこの辺りから派生しているのかもしれません。家事にも判断が求められる場面が多々あります。
※)「牛飼い」業の判断力が県知事に勝る可能性は十分にありますね(笑)。

私の持論は「判断力は判断する 場面で磨かれる」あるいは「判断から逃げると判断力は身に付かない」です。これが正しければ、「判断する訓練」の真剣度や回数を如何に稼ぐかが、青年期や成人期の判断力育成環境として重要になります。

「皆さん、判断してますか、適正に?」と若者(だけではないのですが)に問いかけてみたいところです。

このシリーズはこちらに続きます(新しく投稿されるとそちらに飛びます)。また、このシリーズの第一回目はこちらです。

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