sstepa003: シミュレーション技術の落とし穴

将来の飛行機構造の一つとしてシミュレーションされた機体。こちらから転載させて頂きました。

南米の収穫天気予報図。こちらから転載させて頂きました。

今回はシミュレーションの話をします。

シミュレーションと言ってもネイ〇〇〇選手が得意と言われる「アレ」ではなく、計算機シミュレーションの事です。
計算機シミュレーションを実施するための装置をシミュレーターと言います。疑似体験装置もシミュレーターと呼ばれますが、ここでは計算機シミュレーションに対象を限定します。

シミュレーターは様々な予測を助けるために用いられます。

我々にとって最も身近なシミュレーターは天気予報です。
コンピューターに未来の大気や水の動きを計算させ、天候の予測が予報として我々に提供されます。
100%の確率で「当たる」訳ではありませんが、予定を立てたり災害に備えたりする上ではとても便利で日々の生活に役立っています。

シミュレーターは天気予報の他にも様々な場面で利活用されています。
飛行機の設計においてシミュレーターが用いられるのは有名です。「こういう構造にするとこのような空気力学特性や構造強度、熱発生分布が得られる『はずである』」という答をあらかじめ与えてくれます。実際に機体を作る前に、設計した構造に変更や修正を加えるための見当が与えられ、テスト費用や製造コストが大幅に圧縮されます。

スマホやコンピューターに搭載される集積回路の設計でもシミュレーターは大活躍です。
最近のマイクロプロセッサにはトランジスタが数十億個搭載されるので、設計にはコンピューターの助けが必要です。回路を試作する前にその動作の予測を、設計の良否の判断材料を、与えてくれるのがシミュレーターです。

他方、「計算機シミュレーションを信用していない」という技術分野があることを私は知っています。

シミュレーターの基本動作は、一般に、対象となる物理現象や化学反応を記述する数式の解をコンピューターに算出させることです。
用いられる数式は原理原則から導かれていますので、ほぼ間違いのないものです。

が、計算で必ず必要となるのがパラメータと境界条件です。パラメータとは、例えば、物質などの性質を規定する定数(あるいは変数)です。
境界条件は計算の対象となる空間と外部との境界の条件の事で、そこでの値や振る舞いを定めてから計算を進めます。
多くの場合、これらの設定がシミュレーション結果を大きく左右します。つまり、同じ対象に同じシミュレーターを施しても、パラメータと境界条件の選択次第では結果が真逆になることもあるわけです。

先の例として挙げた天気予報や航空機設計では、パラメータと境界条件の選び方がかなり突き詰められているので、十分に高い正確性が担保されています。
要点はその「突き詰め」が如何様になされるかです。それが厳しければ厳しいほど、回数が多ければ多いほど、シミュレーターの性能は上がります。

天気予報は好例を与えてくれます。
まず、予報(=シミュレーション結果)の正否が万人の目で即座に判断されます。予報を打ち出す側としてはかなりのプレッシャーとなっていると思われます。
予報が外れた場合には「間違った原因は何か」の徹底追及がされるはずです。
この追及は、おそらく、1年で365回行われるのではないでしょうか。毎日ということです。
この高頻度のチェック機能こそ、シミュレーターを育てます。

これに対して「1度の間違いが許されない」対象のシミュレーションもあります。
そのような場合には、パラメータと境界条件の突き詰めに「回数」を重ねることができません。
従って、部分的な実験や小規模試験機でシミュレーション結果の正確性を「確かめる」という補足が不可欠になります。
航空機設計シミュレーター※ではその積み重ねが十二分になされていると考えられます。
※)「間違い=大惨事」です。

ところが、「1度の間違いが許されない」上に「実験や試験機による確認が困難」という対象があります。
このような場合には、シミュレーターの正確性を高める手段がありません
結果、「計算機シミュレーションを信用してはいけない」という技術判断となります。多くの場合、「安全係数を大きくとっての無難な判断」が妥当という結論となります。あるいは「計画の実施をとりやめる」という判断もあり得ると思われます。

この「1度の間違いが許されない」上に「実験や試験機による確認が困難」という対象、どんなものがあるでしょうか?皆様にもお考え頂ければ幸甚です。

ここでの結論を最後に書いておきます。「シミュレーション技術には精度の高いものとそうでないものがあることを認識し、精度の高いシミュレータへの信頼度を精度の低いシミュレーション結果にも当てはめてしまい、回避すべき失敗の可能性を見間違う愚(落とし穴)を犯してはならない」となります。

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