
火曜日の午前2時から放送されたブラジル対日本の試合をNHK-BSでテレビ観戦しました。
選手はよく頑張ったと思います。敢闘精神と団結力に拍手。称賛したいと思います。
本気のブラジルと接戦を演じたのは、日本サッカーの進歩ととらえて間違いないでしょう。
ですが、彼我の差を冷静に分析してその差を埋める、ないしは相手を圧倒する方策を身に着ける、などの改善策を練らないと、いつまでたってもブラジルに互角以上の戦いができるようにはなりません。
以下、私見を少し述べます。
今回のブラジル戦での日本代表の戦い方は、リアクションサッカーと呼ばれる戦術を極めたともいえるものでした。
リアクションサッカーとは主導権を相手に渡し、相手の攻撃の隙を利用してカウンターを発動し勝ち切る守備戦術です。
総合力に自信が無く、自分たちは相手に劣ると考える際の戦術です。
今回の試合の前半はそれが奏功したようで、日本は先取点を挙げ、ブラジルは思ったような攻撃的展開を築けませんでした。
日本代表の入念な事前準備が成功したように見えました。
ところが、ブラジルの監督のカルロ・アンチェロッティは一枚も二枚も上手でした。
ハーフタイムにいくつかの策を講じてきました。
ひとつは、ブラジルのエースのヴィニシウス・ジュニオールの立ち位置をレーンひとつ外にしてほぼ純粋なウイングに変更しました。
世界一のカットイン技術を持つといわれるヴィニシウスに、それを捨てさせたのです※。
※)ヴィニシウスがよくこれを受け入れたものだと思います。
ところが、この変更が奏功して、ヴィニシウスのペナルティエリア侵入の回数が増えました。
ペナルティエリアのサイドから。その原因は日本のDFとの一対一の場面が増えたからです。それまでの日本は二対一の対応で凌いでいたのですが、、。
結果、日本の二人目のDFが外につり出されるとともにDFラインが下がりました。ブラジルから見るとペナルティエリアの左側手前のスペースが使い易くなりました。
アンチェロッティ監督はこれに重ねてクロス攻撃を多用させました。特に、日本のペナルティエリアの角の手前からのクロスが多発しました。ヴィニシウスが「空けた」スペースが存分に使われた訳です。
日本DFの弱点の一つであるウイングバック※のクロス対応の不完全に対して有効となり、同点弾につながりました。
※)本来は前線で活躍している選手たちです。
また、前半に日本が攻撃に活用していたヴィニシウスの後ろのスペースが上述のウイング化によって横に狭くなり、利用頻度が抑えられました。将棋で言う「いわゆる攻防の一手」でした。
選手交代ではなく、配置と役割の変化により打開策を生み出したアンチェロッティ監督は見事でした※。
※)ヴィニシウスの左サイドとは逆の右サイドは選手交代で打開策を生み出したようですが、、。
これらの戦術変更に対して、日本代表は最後まで対応できませんでした。
対応には複数の選手の戦術変更が必要なため、「選手任せの判断」で通すのには無理がありました。
指揮官の目と判断と指示が必要でした。
日本がこれからもリアクションサッカーを続けるのあれば、相手の巧妙なチーム戦術変更に即座に対応できる指揮官を準備しなくてはならないのは自明ではないでしょうか?
「相手に主導権を渡す」のですから、相手の戦術変化に対しては瞬時の対応が求められるはずです。
のろのろしていたら相手の術中に嵌り続けます。
でなければ、なでしこジャパンが目指していた(いる?)ように「常に主導権を握る」サッカーを求める必要があります。
「試合中の戦術変更は日本が相手に先んじて行う」という戦法です。これにも相当な戦術理解力と状況判断が指導者に求められますが、、。
アンチェロッティ監督は試合前日の記者会見でFIFAの批判もしています。イラン代表チームに対する理不尽な対応を指摘するものですが、このような俯瞰的発言をすること自体、アンチェロッティ監督の目線の高さが反映されているように思われます。
アンチェロッティ監督は試合後のコメントでも日本を尊重する発言を並べていました。
視野が広く洗練を極めている監督というのはアンチェロッティ氏のような人物を言うのでしょうか?
少し視点を変えます。
これまた、筆者の私見ですが、サッカーの指導者(監督)には「リーグ戦に強い監督」と「ノックアウト戦に強い監督」があると考えています。
もちろん、アンチェロッティ監督のようなハイレベルの監督は「両方とも強い」のですが、そうでない監督も、世界のトップレベルにおいてすら存在するようです。
日本の森保一監督は、典型的な「リーグ戦に強い監督」ではないかと筆者は見ています。
実際、森保監督の国内実績はJリーグ優勝3回で、これはこれで大変に素晴らしいのですが、ノックアウト戦の代表格である天皇杯やACLでの成績をそれと比較すると見劣りがします。
選手の個性に配慮し、個々の選手が120%の力量を発揮できる環境を整える:森保監督が得意とするこの要素は長期戦であるリーグ戦で効果を発揮する力量です。
対して、「ノックアウト戦に強い監督」には異なる要素が求められるはずです。
なぜなら、リーグ戦での失敗を修正したり変化に対応する時間は数日ないし1週間ですが、ノックアウト戦では数分です。
数分単位での選手起用の妙も求められます。疲労蓄積や故障への配慮も必要です。
一戦たりとも取りこぼしが許されないからです。思考の為の時間軸が3桁ほど異なります。
従来、ワールドカップでの日本代表に求められていたのは長期戦のアジア予選の勝ち抜き、およびグループリーグステージでの勝ち抜きでした。どちらもリーグ戦です。
この条件には森保監督の特性はぴたりと合致します。
ですが、「ノックアウトステージで勝ち抜く」という目標を高く掲げた現在、数分で戦術対応できる能力や数分単位での選手起用の妙が指導者に求められるはずです。
戦術眼に優れたコーチが代役を務めれば、、という指摘もあるようですが、現場の最終責任者でない人物がその重圧を背負うのには無理があるでしょう。
変更を受け止める選手への影響にも差異が生じます。コーチの言葉は所詮は「コーチの言葉」でしかありません。
また、「コーチの分析⇒コーチの判断⇒監督への提言⇒監督の理解⇒監督の判断⇒監督の指示」という迂回路に時間が必要です。あっという間に数分間が経ちます。
試合中の戦術変更は監督の専任とすべきです。
とまれ、日本が属していたFグループを首位通過したオランダも、ワールドカップ優勝4回のドイツもノックアウトステージ初戦で姿を消しました。簡単な大会ではないということです。



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